2025.5.9

ラッコルタ-創造素材ラボ- vol.3 「モノモノローグ」ワークショップ+展覧会 開催レポート

モノモノローグ

岡田裕子(アーティスト)+  株式会社サーカス(素材提供)

 地元企業に不要な部材を提供していただき、それらを表現のための”創造素材”として再活用する仕組み「ラッコルタ-創造素材ラボ-」。アーティスト独自の探究の視点を素材に落とし込み企画されたワークショップにて、子供や大人が表現活動に取り組みます。身近にあるモノを違う視点から捉える機会を創出し、アーティストの視点を通して、新たなものの見方を獲得するラーニングプロジェクトです。「東京アートポイント計画」の一環で東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京と共催してきました。

 ラッコルタのメイン事業であるアーティストワークショップの第三回では、現代美術家の岡田裕子さんをお招きし、「モノモノローグ」を開催しました。株式会社サーカス提供の不思議な素材を伴って、参加者を「想像」の世界へ導きます。そこでの時空間が1つ映像作品として発表されました。

 1月13日(土)に府中市郷土の森博物館の旧田中家住宅の和室でワークショップ、その後1月23日(水)から28日(日)まで府中市美術館 市民ギャラリーで成果展が行われました。その開催レポート、今回の企画の総括、参加者や関係者の感想を紹介します。

「モノモノローグ」ワークショップ |

日常と非日常、現実と非現実のはざま。

モノと人と場のもつ「時間」や「経験」が交差し

想像力という演出によって 独自の物語が幕を開ける。

モノとの対峙から、参加者が想像を膨らませ、それぞれのストーリーを紡ぎ出す。

そんな遊び場「モノモノローグ」へようこそ。

日常の気づきと想像力

 岡田裕子さんは、”日常の気づき” から、近未来を問う作品を制作する現代アーティスト。発想のきっかけは、個人的な何気ない気づきに基づいており、そこから想像力を膨らませてストーリーが生まれていきます。平面や映像、パフォーマンスなど、伝えたいテーマによって表現媒体が選択されるとのこと。現実と非現実、現在と未来が交錯するのも大きな特徴であり、見る側の想像力を刺激する多様な作品を生み出しています。

 今回、ラッコルタワークショップ企画のために、株式会社サーカス提供の不思議なオブジェを複数選択。これらを伴って、時代が錯綜するようなロケーションで、参加者それぞれが主役となるワークショップが展開されます。モノとの触れ合いから発想された物語が紡がれ、日常と非日常、現実と非現実が混じり合うストーリーを1つの作品として記録していきます。

明治時代の移築建築物にて

 公募で集まった10名の個性的な参加者が来場し、いざ、ワークショップが始まります。会場は、府中市郷土の森博物館内にある歴史建造物 旧田中家住宅 和室。明治天皇も滞在した府中宿として、移築保存されています。まずは畳上での顔合わせとして、本日のプロジェクトやアーティストの紹介。その後、少しずつ物語が始まっていきます。

自己紹介でウォーミングアップ!

 プロローグの後は、和室から外のお庭へ移動します。茶室前にある日本庭園にて、参加者の自己紹介タイム。それぞれが黄緑のアイマスクで目隠しをして、小さな回転台に乗り、簡単な自己紹介をします。その風景をまずは8mmカメラで撮影していきます。ラッコルタの使われなくなったモノに光を当てるという趣旨に基づき、ACFの任意団体 むさし府中アルキヴィオのメンバーが、古くなった8mmフィルムでワークショップを撮影してみるという実験的な試みが加わりました。

 明治時代の家屋前にて、視界は閉ざされつつ、身体は緩やかに周る…そこで語る自分が8mmのフィルムに納められるという不思議。まずは語りのウォーミングアップとして、それぞれの個性が出る瞬間が記録に収められました。

モノに戯れる時空間

 その後、再び和室へ戻り、アイマスクで目隠ししたら、いざモノモノローグの撮影開始です。奥の部屋に積み上げられたミステリアスな黄緑の箱の中から、謎のモノが1つ1つ取り出され、参加者の手前に置かれていきます。岡田さんの誘導で、それぞれが与えられたモノと触れ合います。

 視界を閉ざして身体で素材にふれながら、 モノへの愛着を深めていくモノローグが展開されました。岡田さんが参加者ひとりひとりに言葉を投げかけ、感触や感想を尋ねていきます。

 素材提供企業の株式会社サーカスは、店舗の内装をはじめ、壁画やサイン、特殊な造形物を制作する企業。内装工事に伴う現場で生じた廃棄物や、造形物のサンプルなど、ふしぎなモノを定期的にラッコルタへ提供くださっています。いつもと違う「何か」を空間表現を通じて伝える手法、またエイジング技術など、過去/現在/未来を行き来するような作風は、岡田さんと通じる世界観があります。 それぞれの参加者は、これらの全く異なる背景を持つモノと戯れながら、実態を把握しないまま、想像の世界を膨らませていきます。

 岡田さんに導かれ、モノを擬人化するような想像が広がり、最終的にはそれに名前をつけていきます。不要になったモノとの対峙は、参加者ひとりひとりのイメージの世界で、愛着をもった存在へと変化していきました。その過程がストーリーとして紡がれていきます。

 参加者という俳優たちによって、モノが再び生きはじめるプロセスをビデオカメラで記録。社会的な役割や「使用する」 こと以外の モノの価値が立ち上がる時間でもありました。

 その様子を、素材提供会社サーカスの社長さんも静かな興奮で見守ります。

 最後は、それぞれが目隠しをはずして、素材を視覚で確かめます。意外だったり、予想通りだったり、人それぞれの反応。愛称までつけられ馴染んだモノは、目に見えるカタチになると、また一味異なる存在に。

 日常に転がっている多様なモノに、非日常的なやり方で戯れることによって、それらの価値は変わっていきます。物理的なモノの持つ背景、そして、それに触れる人の経験や想像力が混じり合い、モノローグが紡がれていきました。状況の文脈によって、モノの意味、そして価値が変わり続けるこの時空間を映像作品として共有していきます。

「モノモノローグ」展覧会 |

役割を無くしたモノたちにスポットを

  その10日後、府中市美術館の市民ギャラリーにて、「モノモノローグ」成果展が開催されました。岡田さんがワークショップ参加者とともにつくり上げた映像作品を中心に、素材から発想された世界が光と闇の中に繰り広げられています。

 大きな壁面には、ワークショップの記録をもとに編集された短編映像作品が発表されました。ワークショップのライブ感を伝えつつも、シーンやセリフの取捨選択により、オリジナルなストーリーが展開されています。目隠し部分の特殊効果が、それぞれの参加者の頭の中の想像力を映し出しているようにも見えます。

  また、近くには、動き続ける謎の影を映し出すカーテンが吊るされています。

 カーテンの裏側へまわると、映像と合わせて、影の正体を発見できます。

 円台の上に乗せられ、照明を当てられた素材たちが静かに回っています。役割を終えて廃棄される予定だったモノたちが、選ばれ、撫でられ、名前をつけられ、映像化され、美術館でスポットを当てられて、そこに回り続けるという運命。

 一方、映像を投射している壁の裏側では、8mmフィルムが上映されています。ワークショップの自己紹介タイムで撮影された回り続ける参加者たちが、カタカタと鳴る映写機からうっすらと投影。現像されるまで、写っているかどうかわからなかった古いフィルムに光が当てられ、時代を錯綜する不思議な効果に一役買っていました。

 今回の成果展では、この「モノモノローグ」と同時に、過去に開催したアーティストワークショップで制作された作品や素材も展示し、ラッコルタの3年間の集大成を紹介しました。創造素材にもたらされた新たな視点を多くの人に知ってもらう機会となりました。

Vol.1「暮らしと彫刻」三木麻郁+株式会社TOKIO Lab

Vol.2 「いしのこえとみかげ」MATHRAX +玉川石材工業株式会社

*写真撮影:深澤明子, 宮山香里

企画の意義と総括 |

アーティストの素材への視点

 岡田さんのリサーチを素材に落とし込み、企画された今回のワークショップ。企画のために、素材から発想されたアーティストの考察を紹介します。

「モノモノローグ」とは、はじめてわたしがおこなう試みです。

これは、ワークショップではありますが、「モノモノローグ」という作品を参加者と共につくるような気持ちをもって、これをおこないます。

要らない、でも捨てられない…そんなモノが、私たちの身の回りにもたくさんありますよね。

ラッコルタの活動を通じて、使われなくなったもの、その役割を終え、ずっと倉庫に静かに眠っているモノたちとの出会いがありました。

それらのモノは、社会的には、無駄なモノ、必要のないモノと見えるかもしれません。

しかし、使われなくなったために、むしろそれらのモノたちには「使用する」ということ以外の価値が、たちあがっているようにも見えました。

そのような眼差しでモノをよく見て考えてみます。

すると眠っている(死んでいる?)かのようにみえるモノたちが、なんと生き生きと鮮やかに見えてくることでしょう。

こういうことがアート的視点のひとつだと、わたしは考えます。

意味のない、とか、価値のないものというのは世の中にはないのではないでしょうか?

それは、モノでもヒトでも、同様です。

物事を想像する時、私たち人間の脳は、前頭葉と頭頂葉という部位が活発になるそうです。

今回、とある仕掛けをわたしたちが用意します。

その上で、参加者の皆さんの前頭葉と頭頂葉をフル回転していただきます。

ひとりひとりが想像の世界で遊ぶワークショップです。

参加者さんひとりひとりの想像の世界でどんな言葉が飛び出すか、それぞれのストーリーがどのように紡がれてゆくのか。

モノが、どのように再び生きはじめるのか。

わたしもとても楽しみにしています。

「モノローグ」とは・・・ラテン語のmono(ひとつ)と、logue(話)が組み合わされた言葉であり、「ひとりの話、ひとりごと」という意味


小さなモノ、日常へのまなざし

 岡田さんの発想の源でもある「日常の気づき」。身の回りに転がっているモノ、当たり前になっている習慣やルール。見過ごしがちな小さなものにまなざしを向け、少し視点を変えてみる。いつもと違う触れ方をしてみる。そこから豊かな想像の世界が広がることを目の当たりにしたワークショップでした。岡田さんの言葉の通り、世の中のすべては、想像力によって、意味や価値を変えることができるかもしれない。そんな希望をもたらしました。 

地域資源の相乗効果

 今回の事業では、多様な文脈で使用されてきたサーカスの造形素材と、府中市郷土の森に移築された旧府中宿の伝統家屋というロケーションの雰囲気が混合し、最終的に映像化されるという特殊な企画となりました。また、府中市美術館という天井高のあるダイナミックな空間で発表することができ、作品を効果的に見せることができました。地域が持つ資源を読み解き、意外性のあるストーリーで繋げながら活かすことで、相乗効果をもたらし唯一の時空間が実現しました。

 ​​モノと人と場のもつ「時間」や「経験」が交差し、それぞれの歴史が緩やかにリンクしながら、新たなストーリーが生まれていきました。

 第三回のラッコルタ アーティストワークショップでは、「日常に基づく想像力」で近未来を問う現代美術家の岡田裕子さんを迎え、「いつもと違う何か」を技術と創造の力で実現する株式会社サーカスの素材を使い、「地域社会にアート」をもたらす府中市美術館市民ギャラリーにて、ワークショップ成果展を実施しました。今後も地域資源を最大限に活かしながら、アートを通した新たな視点をもたらす事業を継続していきます。

参加者や関係者の感想 |

 「モノモノローグ」ワークショップ参加者の感想 

-「五感をしぼり込むことにより、想像/創造力が広がっていくことが実感できました。」 

-「 モノへの愛が芽生え、自分の手足もまたモノに近い感覚器であることのおどろきと納得。最後、連れて帰りたくなりました。マジで、別れがつらいです。 」

-「自分が、見た目や手ざわりでモノに愛着をもっているのだと自覚する、ゆかいな体験でした。」

– 「 視覚が閉ざされるとイマジネーションが見えている時より高まることを実感することができました。みなさまのストーリーがとっても面白かったです! 」

「ラッコルタ -創造素材ラボ- 成果展」参加者の感想

 – モノに自由な価値づけ、意味づけをする、意味を見出すことがアートの本質なのだろう、と思い至りました。とても楽しいひとときでした。(通りがかり 50代) 

– 芸術の果たすものには大きな使命があることに気付かされました。使用済みの物を生かしていくワークショップには、物だけでなく人への思いやりも育んでいくのではないか。モノモノローグでの物に意味のない価値のないものはないとありましたが、それを芸術で気づかせて頂く、高めてくださる作業に感心しました。また、物ばかりでなく人も全ての人に役割があることにつながるのだと思いました。感動のひとときでした。(ACFの告知による来訪 70代) 

– いらなくなった物をリサイクルして芸術を生み出し、私達に新たな考えを見つけられ、とても参考になりました。ありがとうございました。(通りがかり 10代 中学2年)

 – 展示や仕組みの説明をしてもらったので、よく理解できた。社会や地域とアートを繋ぐというのは言われることだが、地域企業の廃棄素材を起点とするのは興味深い。素材を使った作家の作品がもういくつかあっても良かった。(知人の紹介で来訪 40代) 

– いらなくなった物にもう一度光を当て、新しいものを作っていくことは、やはりおもしろいことだと再認識しました。SDGsなどの件もあり、素材がグレートーンに寄っていくことが予想される世界で、彩度が高めのモノをどう残していくかなど、展示を見ながら考えていました。(通りがかり 20代)


岡田裕子の感想

「モノモノローグ」とは、はじめてわたしがおこなう試みでした。

「モノローグ」とは・・・ラテン語のmono(ひとつ)と、logue(話)が組み合わされた言葉であり、「ひとりの話、ひとりごと」という意味です。
これは、ワークショップではありますが、参加者それぞれが主役であるということをテーマとし、「モノモノローグ」という作品を共につくるような気持ちをもって、行いました。

ワークショップの場所は府中市郷土の森博物館 旧田中家住宅和室でした。

2024年初春、参加者は集まり、畳に腰を下ろし、目隠しをし、目の前に用意されたモノたちが並べられました。

これらは、使われなくなったもの、その役割を終え、ずっと倉庫に静かに眠っているモノたちです。今回ご協力いただいた「サーカス」という府中にある内装業の会社から出た廃材でした。
参加者が、目隠しをしながらそれに触り、彼らがモノの手触りを楽しみ、モノを擬人化するかのような想像を働かせ、モノたちに名前をつけるところまでが、このワークショップの主たる流れです。

 旧田中家住宅では、参加者の想像力により、眠っている(死んでいる?)かのようにみえるモノたちが、生き生きと鮮やかによみがえり、新たな息吹が生まれているのを肌で感じました。

そしてその後、これらを編集し、1日のワークショップの記録を短編の映像作品としました。

映像を編集していると、それぞれの参加者の発言などを丹念に見返す作業に明け暮れます。そうすると新たな気づきも生まれます。参加者の多くは、モノを通じて、自分のどこかにつながるエピソードを語っているのではないかと気づくのです。ヒトにはそれぞれに、大小なりとも、さまざまな歴史があるのだなと、私は感動します。

映像編集をしながら、モノ自体はいつかは無くなってしまうけれど(それはヒトも同様です)、物語は、人から人へ繋いでいけば残ることもあるんだよなあなどとも考えます。

府中市美術館の成果展でこの映像を発表し、多くの鑑賞者に楽しんでいただけました。

ワークショップで使ったモノたちを特殊な照明効果で作品化したインスタレーション作品なども展示しました。

こういった展示を通じて、鑑賞した方々の記憶の片隅に、この小さな物語の数々が少しでも残れば良いなと思います。

また、そういった、あらゆる小さな事やモノへのまなざしが、我々が豊かな人生を歩むためのヒントになると良いなと思うのです。


素材提供企業 株式会社サーカス社長の感想

代表取締役 木村 康子

一言でいうと「忘れかけていた大切な感性が呼びさまされた体験」でした。

最初は廃棄処分となるしか道がないような廃材をアーティストの岡田さんが次から次へと「面白そう」と手に取っていく様子に、この廃材をもとにワークショップ?何がどう行われるのか全く想像がつきませんでした。

いざ当日、モノモノローグの開催場所に行ってみると、それらのただの廃材が、感性溢れる人たちの手で命が吹き込まれていくようなそんな様子に、子どもの頃、確かに持っていたはずの面白い何かが呼び覚まされました。

そんな体験を弊社の廃材を通じてワークショップに参加されていた皆さまと一緒に

私も感じることが出来たことを嬉しく思います。ありがとうございました。


「ラッコルタ-創造素材ラボ- Vol.3 モノモノローグ」開催概要

モノモノローグ」ワークショップ情報

日時|2024年1月13日(土) 13:00 – 15:00) 

場所|府中市郷土の森博物館 旧田中家住宅  (東京都府中市南町6-32)

講師・アーティスト|岡田裕子  参加者|幅広い年齢層の大人 合計10 名

素材|造形物、装飾品( 株式会社サーカスより)

ラッコルタ -創造素材ラボ–」成果展情報

日時|2024年1月23日(水)〜1月28日(日) 10:00 – 17:00 (最終日は16:00まで)

場所|府中市美術館 市民ギャラリー  (東京都府中市浅間町1-3)

参加人数|約555名

主催|東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、NPO 法人 アーティスト・コレクティヴ・フチュウ(ACF)

ワークショップ紹介動画|