2022.3.24

「暮らしの彫刻」企画をふりかえって

ラッコルタ-創造素材ラボ-vol.1 「暮らしの彫刻」オンラインワークショップ+展覧会の企画をふりかえります。

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ワークショップ講師・三木麻郁さんの素材への視点
アーティストの視点を通して、新たなものの見方を獲得することを目的としている当事業。今回の「暮らしの彫刻」での意義を振り返ってみます。空気や水をコントロールする「ものづくり」に携わる(株)TOKIO Labご提供の素材は、赤ちゃんの鼻水吸引器のパイプを固定するための緩衝梱包材であるダンボールパーツ。ワークショップの企画に当たって、この素材を通した三木さん独自の視点と考察を以下のように提示いただきました。


「このダンボール梱包材は、調べてみると 2 種類ある事がわかった。一見、すべて同じ形に見えるが、縦の長さが数ミリ違うのだ。連結の仕方でいかような形も作れるこの廃材は、玩具として売られている様々な知育ブロックよりも、 多様な立体を作ることができる。既製品の多くは 1 種類の形の組み合わせだが、この廃材は 2 種類あり、さらに折り曲げることができるのが、そのポイントだろうと考える。連結していく様子は、原子の連結式を思い出させる。原子はそれぞれの持つ特徴によって連結する形が決まってくる。例えば水はHsO、水素と酸素という原子が組み合わさって出来ているし、条件が揃えばそれぞれに分解もできる。 私たちの身の回りにあるあらゆるもの、物質、生命も、私たちには途方もない想像力が必要だが すべて原子の組み合わせで出来ている、と科学者は言う。このダンボールのパーツを、何かの新たな原子と見立てると、それの連結方法によって作られるあらゆる形は、私たちの周りにできた” 新たな物質、もしくは、生命”と言うことになるのだ。 生命という設定なら、この原子をDNAと捉えてもいいかも知れない。なんとなく、染色体ぽい形にも見える。
今回のワークショップでは、参加者にも私の活動の疑似体験をしてもらうのはどうかと言う考えから、私が日常的に家の写真を撮ったように、日常の中で「彫刻」を作るプランを提案する。それをなんらかの形で発信するために、やはり家に繋がる場所(庭、 家の前など、本人が家と思える場所もOK)で撮影してもらう。 ここでは、あえて「彫刻」と呼びたい。廃材を組み合わせて形作られるものだから、彫り刻むのではなく、加算する作業と思われるだろうが、ここで、なぜ塑像で作る作家でさえ彫刻家と名乗るのかを考えてみる。 塑像という方法は、初めは粘土を積み重ねて概ねの形が作られるが、仕上げに進むに連れて積み重ねたものを削り取ることで形が現れてくる。プラスとマイナスの作業を交互にして、完成まで持っていくのだ。ただ、実際に粘土で製作していると「刻むのは 物質だけではないんだろう」という気がしてくる。時間や空気、心の動き、目には見えないものを削り、削ぎ落とすことになる。この材料も、つけたり、外したりがしやすい材料だ。そうした疑似体験を、日々の生活の中で、ささやかにでも感じてもらえたら、と思う。

アーティストの視点を体得する時間

 このような三木さんの視点について紹介するとき、ステートメントとして頭での理解を促すよりも、身体を通した体験で自らに向き合う”ワークショップ”の手法を利用するほうが、心に入り込みやすいかもしれません。三木さんの視点を身体的に擬似体験することが、アートを身近に感じてもらう手立てとなるのではないかと考えています。

 ラッコルタのディレクションに携わった筆者(ACFメンバー/美術家 宮山)の個人的な想いとして、日本における芸術と社会の乖離の中、現代アートをもっと身近な「自分ごと」として捉えてもらうために、ささやかながらできることは何かを考え続けてきました。約12年間、ヨーロッパを中心としたアートフェアへ作品を出展した折、日本やイタリアのギャラリスタのための通訳として毎年立ち会う中で、千人以上の不特定多数のコレクターやアート愛好家と作品を通じた会話を重ねてきました。歴史的に層の厚い現地のコレクターの多くが、作品の背景にあるアーティストの視点や探究を、自らの人生や仕事に照らし合わせ「自分ごと」に解釈し、新たな刺激にしたり役立てていることを知りました。批評的視点を育み、自らの言葉で語る教育を受けてきた土壌があるからこそ、西欧で現代アートに価値が見出され、社会に根付いていると実感しています。

 一方、日本の場合、アーティストの視点をステートメントで論理的に紹介されても、自らの心の中に入り込みづらいのではないか、と感じています。むしろ、日本独自の伝統的な芸能や茶道の手法のように、”身体的な体験を重ねることによる気づき”にまなざしを向けたほうが、「自分ごと」として体得しやすいのではと考えました。今回のワークショップの場合、個々人が無心で素材に触れ、身を任せる時間を持つこと、それに伴う自らの気づきを改めて言葉にしてみること、その過程で見えてくるものがあるのではないかと考えています。実際、子どもから大人まで、年齢も背景も多様な参加者が、同じ素材に向き合い、それぞれの居場所で無心にカタチを立ち上げていくプロセスを追うのは興味深い時間でした。オンラインで緩やかに繋がり、公と私のはざまで、自分の居場所を確認しながら、「暮らしの彫刻」をつくってみる。講師の三木さんのコメントや、他の参加者の言葉を耳にしながら、ひたすら手を動かし素材を繋げたり削ぎ落としていく。それぞれが生活空間のストーリーを彫刻として立ち上げること、それを共有することで、アーティストの視点が、徐々に自らの中に入り込んでいくのではないでしょうか。

地域企業、人、場、をアートでつなげる仕組み

 ACFの目的でもある「だれもが表現できるまち」「アートを身近にすること」。そのためには、アートとの関係が希薄な人たちにも、アーティストや表現活動に触れる機会を増やしていきたい。ラッコルタの根底にはそんな想いがありました。

 府中市内に数多く存在する地域企業との出会いのきっかけとして、「部材の提供」があり、そのアートによる再利用によって、不要が有用となる過程を共有する方法を模索してきました。素材の提供を契機に、今まで出会わなかった人々と出会い、知らなかった世界への扉が開かれました。そして、素材の価値が変化し循環するプロセスを共有することによって、企業の方々にも「自分ごと」としてのアートとの関わりが継続的に続いていくことを期待しています。

 初回のラッコルタでは、「見慣れた世界の俯瞰を試みる」美術家 三木麻郁さんを迎え、「空気、水をコントロールする製品開発を行う」株式会社TOKIO Labの素材を使い、「DIY歓迎の自分らしい暮らしを尊重する賃貸住宅」とりときハウスのギャラリーにて、オンラインワークショップ+展覧会を実施しました。今後も、個性的なアーティスト・地域企業・場所をつなげながら、新たな視点をもたらす事業を展開していきます。

ワークショップ参加者の声

「創ること自体がセラピーのような感じになるのか、大変心地よかった。素材の形や重さや色やカーブ、活かしてというよりはそれに任せて創り上げていった。創っていく過程で自分の日常や経験が重なっていった。年代も暮らす場所も違う人たちが、同じ素材に向き合うという、とても面白い時間になった。」

「色々な方の創作の過程、お話を聞くことができ、大変楽しかったです。大人、子ども、世代という括りで捉えることのできない多様な発想、思いの違い。新しい感覚、考えに触れることができ、素敵な時間を過ごすことができました。」

「無言で、みなさんの手元をちらちら見ながら…というオンライン研修は初めてでした。不思議な、でもとても楽しい時間でした。」

「無心に物事に取り組むということも貴重でしたし、なによりみなさんの制作意図を聞けたのが楽しかったです。」

「いつもの場所が、ワークショップに参加することで少し景色が違って見えました。」

アーティスト三木さんの感想

ワークショップ参加者さんたちの様子から、今回の内容にはきっと喜ばれたのではないかという手応えをモニター越しから感じました。ワークの内容と今の社会情勢がうまくハマったことが、参加の動機に繋がったのではないかと思います。皆さん、オンラインを使う生活に慣れてきていた時期でもありましたし、あえて家でやる、というところで気持ちが楽になり、参加のハードルが下がったのではないでしょうか。実際に参加されて、この企画に取り組む社会的な意義も感じていただけたと思います。また展示室での展開に、常に変化が見られる仕掛けにしていたこと、Instagramでも定期的な動きがあったことで、遠くからでもリアルタイムでネット情報を追う面白さがありました。

こうした企画が立てられたのも

①宮山さんをはじめ、スタッフさんたちとのコミュニケーションが取りやすく、私の考えをお伝えしやすかったこと

②すぐに私の意図を汲んでくださり、そこから適切な評価や反応をいただけたこと

③フットワーク軽く皆さんに動いていただけたこと

という3点が挙げられると思います。チームの連携は、一人一人のモチベーションにつながってくるので、本当に大切です。

振り返ると、「アートはハブになれる」というひとつの役割を、スマートに体現した企画になれたのではないでしょうか。産業とアートを繋げたことから、市民とアートをつなげ、ひいては産業と市民を繋げる取り組みだったと、私は思います。

企画側の難しさとしては、必ずしも自分の思想とフィットする素材と出会えるとは限らない、ということです。そのアーティストにとって魅力的な材料があるかどうかは、本当にご縁というか、タイミングがあるだろうなと感じました。

素材提供企業 (株)TOKIO Labさんの感想

①生産部・工場長 瀬崎 豊

ワークショップの展示会に参加させて頂き有難う御座います。弊社での廃棄していた段ボールチップが、ACFさんのイベントに参加されたいろんな方の作品(写真)を拝見させて頂き、芸術的な作品に生まれ変わっていて大変感動致しまた。あらためてアーティストの方の創造力に感服した次第です。今後、活用出来る様な廃材が出た際にはご連絡いたしますのでご活用願います。

②生産部・社員 本田 大樹(実際に親子でイベントに参加をさせて頂きました)

普段毎日何気なく扱っている梱包廃材が、色々な方の色々な形で一つの作品になっていることに大変驚きました。廃棄ではなく活かすことで新たな発見があることに、改めて「リサイクル」という言葉を大切を感じました。

③取締役・総務部長 福原 強

今回は、ACF様の活動に参加させて頂き、ありがとうございました。弊社にとって初めての活動であり、社員には新しい気付きをたくさん頂きました。製造業という立場上、SDGsや廃棄物の利活用には強い意識はありましたが、アーティストの方たちとご一緒させて頂く中で、私たちには無かった視点や価値観に触れることができました。

同じ「ものづくりの仲間」として、社員一人一人の心の中に今までに無い刺激があったと思います。今回の活動を通じて、新しい気付きが生まれただけでなく、これを変わるキッカケとして、今後の仕事や生活に活かしていってほしいと思います。貴重な機会を頂きまして、とても感謝しております。ACF様、三木様、本当にありがとうございました。

基本情報

日時|オンラインワークショップ:2021年12月5日(日) 10:00-12:00と14:00-16:00の全2回

   展覧会:2021年12月6日(月)〜12月19日(日) 11:00-17:00

場所|とりときハウスギャラリー(東京都府中市宮西町4-13-4 とりときハウス1F)

参加人数|ワークショップ 32名、展覧会来訪者 のべ100名

主催|東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、NPO 法人 アーティスト・コレクティヴ・フチュウ(ACF)

協力|株式会社TOKIO Lab、玉川石材工業株式会社、日本光具株式会社、一般社団法人まちづくり府中、株式会社F.F.P.

本事業は令和3-4 年度市民提案型協働事業として採択され、府中市の文化生涯学習課と協働しています。

ラッコルタは、ローカルなモノ・コト・ヒトの循環、そして暮らしの中での「表現」を促進するために、府中市や東京都の自治体と組んで当プロジェクトを進めています。私たちACF は、今まで培ってきたネットワークを活かし、地域の公的私的な場を繋げながら、創造と発想についての学びの機会を増やしていきたいと考えています。

お問い合わせ先|Email: project.acf.21@gmail.com  ラッコルタ 担当

*写真撮影:清田大介、深澤明子