2025.6.11

チャーム・ケア➕ACF「未来の記憶」プロジェクト

ラッコルタ-創造素材ラボ- ワークショップ

「私のお気に入り 〜みる・ふれる・おもう・記憶と対話〜」

日時 | 2025年1月28日 14時〜15時 

会場 | 介護付有料老人ホーム「チャーム府中番場」ダイニング 

主催 | チャーム・ケア・コーポレーション、アーティスト・コレクティヴ・フチュウ

助成 | 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[芸術文化による社会支援助成]

「未来の記憶」プロジェクト

私たちNPO法人アーティスト・コレクティヴ・フチュウ(以下ACF)は、東京都府中市を中心に「表現」や「アート」に関心のある人々が集まるネットワークです。アートを通して異なる視点に触れ、お互いの違いを尊重できる土壌づくりを行っています。

ACFは、介護付有料老人ホームを運営する株式会社チャーム・ケア・コーポレーション(以下チャーム・ケア)と連携し、「未来の記憶」をテーマにプロジェクトを開始。アートを介したコミュニケーションの可能性を探求するために、一連のレクリエーションプログラムを企画していきます。ご入居者の「個性」を引き出し、「その人らしさ」を大切にした企画により、本人のみならず、介護スタッフやご家族を含めた他者も、発見を積み重ねるような事業を目指しています。五感の刺激によって「思い出」の引き出しを開け、カタチや言葉へ紡ぐことにより、他者へ伝える効果を検証していきます。それぞれの記憶を、他者を通じて「未来の記憶」へ繋げていく試みです。

まず2025年1月28日に、チャーム・ケアが運営する介護付有料老人ホーム「チャーム府中番場」にて、「ラッコルタ」の多様な素材を用いたワークショップを実施しました。

私のお気に入り 〜みる・ふれる・おもう・記憶と対話〜

ACFが主宰する「ラッコルタ –創造素材ラボ-」は、地元企業に不要な部材を提供していただき、それらを表現活動のために新たな視点で再活用する仕組みです。今回、その”創造素材”を一同に並べて、介護付有料老人ホームの入ご居者約20名が参加し、自由に作品を制作しました。懐かしいもの、見たことがないものを直感で手に取り、「ごっこ遊び」のように気になるものを容器に並べていきます。素材の質感や肌触り、色や形から発想する見立てや、ご自身の思い出と共に生まれる対話を楽しみながら、それぞれの作品を仕上げていきます。素材から想起する記憶や⾔語活動、表現によるコミュニケーションを重視し、ACFやスタッフが寄り添い、声がけをしました。部材の由来や背景の物語を聞いたり、質問を投げかけたりしながら、よみがえる記憶や昔の思い出を共有していきます。お気に入りを並べた容器は、色鮮やかな背景と共に撮影して記録し、色フレームに入れて完成作品としました。

この活動を通じて、ご入居者やスタッフをはじめ、参加者同士の会話が広がり、作品を見せ合いながら交流を楽しむ姿が見られました。「ふしぎな素材に触れて、自由に組み合わせることで脳が刺激された」「見ていて綺麗で、好きな色を選ぶ楽しみがあった」などの声が寄せられました。介護スタッフからは「今まで知らなかったご入居者の一面や、過去の体験を知る驚きがあった」、ACFからは「90年近い歴史を持った個人に耳を傾け、対話をどう引き出すかに注力する時間だった。物へのアプローチの仕方、触れる時間や方法も人それぞれであるからこそ、見守ること、そして話かけるタイミングに注意を払った。」などの感想がありました。たくさんの経験や思い出が仕舞い込まれているからこそ、ちょっとした一言やきっかけから、いっきに言葉が溢れ出ることがあります。超高齢者として歳を重ねると、できないことが増えるばかりで後ろ向きな気持ちになりがちと聞きます。しかし、1世紀近い激動の時代を生きた人間として、記憶や経験など文化的な領域へアプローチすることで、より個人の尊厳を保ち、自信を得ることができるのかもしれません。作品を褒められて嬉しそうに笑う参加者たちの表情を見て、アートを通したコミュニケーションの可能性を実感しました。

今後、ラッコルタ、8mmフィルム上映、音楽等、感性を刺激する企画を総合的に提供し、「五感」を発揮して「その⼈らしさ」を表現できる仕組みを探求していきます。 

執筆 宮山香里  写真 高橋真美

チャーム・ケア・コーポレーション アート部門担当にお話を伺いました。

(写真 左から古田さん、菊水さん、小林さん)

株式会社チャーム・ケア・コーポレーションが、介護付有料老人ホームでアート事業に取り組む理由を教えてください。

–  菊水 

2014年、東京に進出したタイミングで、何か新しい取り組みをしようというときに、当時社長の下村が、若いアーティストへの支援を弊社の目玉としていきたいと決めました。

この「アートギャラリーホーム」活動は、自社運営する介護付有料老人ホームに絵画やオブジェ等のアート作品を取り入れることからスタートし、若手アーティストを対象とした全国公募の開催や様々な発信、アーティストとのワークショップ等を行ってまいりました。

2023年には、アートを通じたこうした活動が、若手アーティストと高齢者の双方がともに学びや刺激を得る場づくりになっていることを評価され、メセナアワード2023優秀賞を受賞しました。

今後も、アートから生まれるコミュニケーションを介して、ご入居者とそのご家族と地域、施設で働く介護スタッフを「つなぐ」ことができればと思います。

今回、ACFと新たなアートの取り組みを協働する上で、期待することは何でしょうか。

– 菊水

私どもは、お客様の多様な価値観を大切に、介護事業に邁進してまいりました。ACF様の活動は、アートを通して自由な表現を尊重する土壌づくりに取り組まれておられることから、プログラムを共に企画・開発し私どもの介護付有料老人ホームで実施することで、お互いが学び合うことができると思っています。

アートに関わる活動が、ご入居者の生活の質を向上させるとともに、社会福祉分野でのアートの価値の普及に寄与できることを期待しています。

今回のチャーム府中番場でのワークショップで印象に残ったことはありますか?

–  古田

お皿への盛り付けが上手なご入居者が、実は昔喫茶店を経営していたというお話をしてくださいました。また、布の組み合わせにセンスを発揮する方もおられ、過去の仕事や趣味を垣間見るきっかけになりました。介護スタッフが「ご入居者の知らなかったところがよく見えた」と驚いていました。

– 菊水

素材を見て触れて感じ思い出していくことで、認知機能が低下した方でもおしゃべりを始められ、それがコミュニケーションに繋がっていく。高齢者は子どもと異なり、「過去に見たことがある、やったことある」という接点が刺激されると、自分を再認識し自信につながるということを発見しました。

ACF様との協働ワークショップは高齢者向きのアプローチの仕方が独特で、新たな可能性を感じています。