2025.5.30

コラム 「共生社会と向き合うとき」

ACFは2024年の秋に開催された市民文化の日に「五感で体験!」をテーマにイベントを企画しました。会場は府中駅すぐのけやき並木通りです。

視覚はもちろん香りや、触覚、音や食にまつわる体験、戯曲づくりや伝統文化体験などそれぞれの五感をフルに使って楽しむ場を提供しました。会場には目、耳、鼻、口、指(触覚)をモチーフにした奇妙さのあるモチーフを飾り、来場者は普段はあえて意識をしていない五感を意識することで、じっくりと体験ブースを楽しむ姿がみられました。

「五感」というテーマに向き合うとき、自分がどんな感覚に重きを置いて生活しているのかということを意識的に考えることになりました。見た目を重視することが多かったり、好きな香りや苦手な臭い、手触りに異常にこだわりがある、など。自分の特性を知ることで、他者も同様にまた違ったこだわりや感覚を持って生活しているのだということが想像できます。

府中市との連携事業である「共生社会を聞いて、みる」という番組づくりは、ACFが大切にしてきた「五感で体験!」を通じて、自己理解と他者理解を深める体験とリンクしているように思えました。共生社会とひとくちに言っても、どこから考えていったら良いのだろう。まずは他者理解を深める第一歩として、地域で活動する方に「共生社会」というテーマでお話をうかがうことからはじめたのがYoutube「共生社会を聞いて、みる」です。

初回から3回目までのトークは2024年10月13日に府中市制施行70周年記念として行われた「市民文化の日 in けやき並木」の1ブースとしてテント内での公開収録を行いました。ある人は日常的な通り道として、ある人は公開収録スケジュールを横目に立ち止まってゲストのトークに聞き入っていらっしゃいました。

 まずは「市民文化の日 in けやき並木」の開催冒頭に、府中市長の高野律雄さんにお話いただきました。府中市のまちづくりのなかでの「共生社会」とは一体何なのか。市内の小学校で開催されたインクルーシブ運動会や、障がい者も健常者も一緒に鑑賞する手話劇祭が予定されている事など、府中市が共生社会実現を地域として掲げている一端を知ることができました。「共生社会を聞いて、みる」ではアクセシビリティを意識し、ゲストにお話をききながらトークの内容を「グラフィックレコーディング」で文字や絵にまとめていただく試みを実施しました。公開収録の傍らで観覧中の方たちはトーク内容を聞きながら、その内容が絵と文字で視覚化されていくのを目の当たりにします。トーク後には観客とゲスト、パーソナリティも一緒になって「グラフィックレコーディング」の出来上がりを鑑賞し、トーク内容を振り返りながら感想を言い合う場面も生まれました。

2人目のゲストは、府中市在住でパリ2024パラリンピック ブラインドサッカー監督の中川英治さんです。視覚障害のある選手と、監督・コーチが密にコミュニケーションをとりながら行う競技の特性と、参加するメンバーの多様性をお話いただき、競技を通じて独自のコミュニティを育てている協会の活動も知ることができました。

3人目のゲストは、書体(フォント)デザイナーの高田裕美さんにお話をお聞きしました。文字の見にくさや読みにくさを感じている感覚が様々にあることを知り、それを解決するために考えられたUDフォントや、「UDデジタル教科書体」の開発を通しての高田さんの体験を聞きました。誤解されてしまいがちな「だれにでも」という言葉が、多数のひとに向けたものではなく、今まで見過ごされてしまった人に寄り添うサービスを研究したり、現場や当事者に聞きとりした上で開発に反映している姿勢に感銘を受けました。

4人目のゲスト、府中市聴覚障害者協会の小野寺敏雄さんにお話をお聞きする際は、会話でコミュニケーションができないゲストを招いてのトークとなりました。ゲストの手話通訳、パーソナリティの通訳がそれぞれ必要な状況で、撮影方法も吟味する必要がありました。打ち合わせも手話通訳を介して行います。手話通訳の方を手配するということも初めての試みで、手話通訳さんのお仕事中の配慮やこだわりも垣間見えました。小野寺さんとのお話のなかで、手話には二種類あることを教えていただきました。手話という手のかたちと動きで表現する独特のコミュニケーションを改めて興味深く感じました。そして、小野寺さんのコミカルな表情が私たちをリラックスさせ、顔の表情も手話でのコミュニケーションにおいて大切な要素だということを教えていただきました。この時の「グラフィックレコーディング」は特に視覚的に会話内容を補完することの有用さを感じました。小野寺さんが「できればこの作品を持ち帰りたいほどだ」と、感動して内容を観察されていたのが印象的でした。

5人目のゲストは、アール・ブリュット立川実行委員会の柴田まりさんにお話を伺いました。2歳の時、広汎性発達障害と診断され、現在アール・ブリュット作家として市内外で制作・発表をしている柴田将人(しばたしょうと)さんをご家族にもつお母さまとしての体験をお聞きしました。将人さんとどのように制作・発表を行なってきたのか、両手に収まらないほどの作品やグッズを拝見しながらお話をお聞きしました。収録会場のLIGHT UP LOBBY(ライトアップロビー)では、収録日よりも前からガラス面へのペイントが開始されていました。ガラス窓に描かれた将人さんの作品を横目にお話いただき、府中ではまだまだアールブリュット作家たちの集まるコミュニティが形成されていなく、そういった場所を希求するお声も聞かせていただきました。

これからも私たちの知らない「共生社会を」「聞いて、」みたいと好奇心がわいてきます。

文 宮川亜弓 

[事業概要] 東京都・府中市芸術文化連携事業「共生社会を聞いて、みる」

東京都・府中市芸術文化連携事業「共生社会を聞いて、みる」は、府中市の地域共生社会実現に向けて様々な取り組みを進めていくために、共生社会にまつわる活動に取り組むゲストをお迎えし、お話を伺う配信番組です。番組では話の内容を「見える化」するため、会話を聞きながらリアルタイムで文字やイラストを使って1枚にまとめる、グラフィックレコーディングを採用しています。ACFでは、府中市と東京都の芸術文化連携の取り組みにあたり、また「共生社会」というテーマを通じて、本企画を連携事業の一環として番組企画・制作に携わりました。

「共生社会を聞いて、みる」プロジェクトページ

主催:東京都、府中市、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京企画協力:特定非営利活動法人アーティスト・コレクティヴ・フチュウ

ゲスト:
Vol.0 高野律雄(府中市長)
「府中市における地域共生社会実現に向けた取り組みについて」

Vol.1
中川英治さん(パリ2024パラリンピックブラインドサッカー監督)
「スポーツにおける共生社会について」

Vol.2
高田裕美さん(書体デザイナー・株式会社モリサワ)
「誰もが読みやすい!?奇跡のフォントとは」

Vol.3
小野寺敏雄さん(府中市聴覚障害者協会会長)
「2つあるって知ってた?日本手話と日本語対応手話」
※順次公開

Vol.4
柴田まりさん(アール・ブリュット立川実行委員)
「アール・ブリュット作家との家族としての関わり」
※順次公開

※Vol.0~2は、昨年10月13日に開催した府中市制施行70周年記念「市民文化の日 in けやき並木」内で公開収録を行いました。

パーソナリティ:宮川亜弓(ACF)
グラフィックレコーディング:清水淳子
撮影:竹中裕晃(ACF)、平田誠(ACF)
編集:竹中裕晃(ACF)
音楽:「イメージするおんなのこ」「ishinomaki」(作詞・作曲・歌唱:シーナアキコ)
ロゴデザイン:杉浦一志(ACF)

■東京都・府中市芸術文化連携事業の事業背景について
府中市は、今年開催される東京2025デフリンピックのレスリング競技会場でもあることから、機運醸成のための共生社会を考えるプログラムを実施したいと考えていたこと、及び、2026年度から始まる次期府中市文化芸術推進計画策定に向け、活動の担い手の声を拾う場を作りたいと考えていたことから、東京都及び公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京と連携して本プロジェクトを行いました。

■東京都・区市町村芸術文化連携事業について
東京都では、東京文化戦略2030の「誰もが芸術文化に身近に触れられる環境を整え、人々の幸せに寄与する~人々のウェルビーイングの実現に貢献する」目標のため、生活の中での芸術文化活動が増えること、行政の様々な場面で芸術文化が活用されていることを目指し、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京とともに、区市町村単独では取り組めない事業や、区市町村の試行的な取り組みの支援を行っています。

東京都

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

Artist Collective Fuchu presents「おとのふね」とは府中エリアを中心としたコミュニティFM放送局ラジオフチューズ87.4MHzで、「Artist Collective Fuchu [ACF]」がお届けするラジオ番組です